No.31 「個人」と「問題」を分ける(2)

前回デスクが汚く頭を掻いてフケを机に落とす癖がある同僚Aさんの様子が目に入り気になって仕事ができない状況を例に挙げ、その同僚Aさんのクセを止めさせようとすると「個人」に着目することになり、他人のクセや行動パターンを変えることは難しく、自分でコントロールできる範囲が非常に狭くなるとお伝えしました。今回はこの事象における「問題」に着目してみましょう。

この事象の「問題」は何でしょうか?同僚Aさんの行動を変えることができない場合、この事象における問題は「同僚Aさんの行動や机の様子が仕事中に目に入りやすく気になって自分が仕事に集中できない」ということです。せめて自分のデスクで仕事をしているときだけでも仕事に集中できるようにするためには、このAさんの様子が目に入らないようにすることが対処方法の一つとして考えられます。

例えば、自分のPCを置く場所をAさんがいる方向とは逆方向に置くことで自分のPCに向かっている間はAさんが目に入らないようにする。または、デスクに資料を積み上げているのであれば、その積み上げた資料をパーテーション代わりにして、Aさんが視界に入らないようにする。場合によっては、上司に席替えを依頼してAさんが見えない位置に席を移動するなどが考えられます。こうした相談を受けたとき、クライアントに「問題」に焦点を当てるように促すと、対処方法として意外に色んな案がクライアント自身から出てくることがよくあります。

このように「問題」に焦点を当てると自分でコントロールできる範囲が広がり、同僚Aさんの行動を変えるといった根本的な問題の解決にはならなかったとしても、以前より仕事に集中できるようになったり、対処方法を見つけられたことで気持ちが落ち着くことがあります。

「個人」に着目し、その「個人」を変えようとするとあなたの脳の中で一種の「執着」として働くため、そのうちAさんの机の汚さや頭を掻くしぐさ以外のことまで気になって気になって仕方がたないなどというネガティブスパイラルに陥ることもあります。

特に職場では、「個人」の資質や行動パターンに関して触れることは、仕事の範疇を超える可能性があり、その人の人格や尊厳を傷つける言動と見なされ、繰り返されればハラスメントとなるリスクもあるので注意が必要です。「問題」に着目するだけで、自分でコントロールする範囲が大きくなるだけでなく、誰かに何かを伝えるときも「問題」に焦点を当てて伝えた方が、相手も耳を傾けやすくなります。「個人」に着目した発言は、伝えることの目的がただその相手を不快にしたり傷つけることになりかねません。一方「問題」に焦点を置いて伝えた途端、相手も問題に一緒に向き合ったり、取り組んだりする傾向があります。まずは「個人」と「問題」を分けることを意識し、相手に伝える前に「問題」が何かを考えることから始めてみましょう。そうすることで伝える目的が明確に合理的になり、安心・安全な関係が構築しやすくなります。