No.28 アイ・メッセージ (5)

自分が伝えたいことに相手が耳を傾けやすくするコツの一つとして、「アイ・メッセージ」について説明してきました。「あなた」を主語にして話すと「非難・批判」のように聞こえがちですが、「私」を主語にするだけで相手があなたの話に耳を傾けやすくなるだけでなく、ともすれば「歩み寄る」気持ちを相手に引き起こすことができます。しかし、「アイ・メッセージ」を使ったからといって、相手があなたのメッセージを理解し、全てを受け入れてくれるとは限りません。それでは、相手が理解せず受け入れてくれなければ、「伝える」意味はないのでしょうか?

「伝える」とは能動的な行為であるため、自分の行為の責任として行為の結果について自身に問い後悔する人は少なくないでしょう。「あなた」を主語にして伝えたがために、「非難されている」と感じた相手が耳を塞いでしまったら、「自分の言い方が悪かったから・・・」「相手をただ不快にしただけだった」「自分の気持ちを上手く伝えられなかった」と、自分のコミュニケーション力を疑い、せっかく勇気を出して伝えたにもかかわらず自尊感情を下げてしまうかもしれません。このように結果の責任を自分が背負ってしまうリスクが高くなります。(一方相手は、「もう少し言い方があるでしょう!」などと反省するどころかあなたのせいにして問題と向き合わない口実にすることさえあります。)また、「伝えても無駄」とあきらめて伝えなければ、それもまた「自分の責任を果たしていない」と自分を責める材料になりかねません。

「アイ・メッセージ」を使うと、相手を非難するニュアンスが抑えられるだけでなく、「自分の気持ちや思い(こころ)」を伝える要素が増えるため、「自分の伝えたいことは伝えた」と感じられる可能性が高くなります。「上手く伝えられなかった」と思うのと、「伝えたいことは伝えられた」と感じるのとでは、自分の行為の結果の自尊感情への影響は大きく違います。「伝えたいことは伝えられた」と思えるときは、相手が自分の言葉に理解を示さなくても、受け入れてくれなくても、自分の「『伝える』という責任は果たした」と考えることで自分を責める材料は少なくなります。その結果、より客観的に状況を把握することができ、例えば「この人はまだこの事実を受け止める心の準備ができていないのかもしれない」「私にできることは『伝える』ところまでだから、後はこの人の問題で私の問題ではない」と、割り切ることもできます。

こうした意識は、相手の問題を自分の問題として引き受けないことにもなりますし、場合によっては、それ以上無理強いしないため相手を「変えよう」とするコントロール(支配欲求)を抑えることにもつながります。「あなた」を主語にして話しているときは、「相手を変えたい」という考えが強く、目的が「伝える」ことではなく「コントロール(支配)」さらには「攻撃」になっていることがあるかもしれません。目的が「支配」や「攻撃」になったとき、それはコミュニケーションではありません。せっかく勇気をもって伝えたのに後味が悪くなる「支配」や「攻撃」にならないようにするためにも「アイ・メッセージ」で伝えることが肝心です。

自分が「伝えたいことを伝えられた」と思えれば、相手が理解を示さなくても、「自分の責任は果たした」と感じることができます。相手が受け入れてくれなかったとしても「伝える」ことの意味はあるということです。意思の疎通につながらない相手に対しても自己尊重心を維持しやすくするのが「アイ・メッセージ」なのです。