No.26 アイ・メッセージ (3)

前回、日ごろ私たちは伝えたいことを伝えているようで、肝心の自分がどう思っている(感じている・考えている)かについてはきちんと伝えていないことが多いことをカウンセラーとクライアントのやり取りを例にお話しました。

「アイ・メッセージ」(「私」を主語にして話す)を使って伝えるということは、自分の「気持ち」を伝えることです。「私」を主語にして話したときと「あなた」を主語に話したときとではどれくらい聞こえ方が違うか、前回のクライアントの例で見てみましょう。

前回クライアントは仕事で忙しくて話をする時間をつくってくれない夫に対し、
「忙しい、忙しいって、全然私の話を聞いてくれないじゃない!」と伝えたところ、夫は不機嫌になって黙って部屋を出てしまいました。上記の内容を「アイ・メッセージ」を使って言い換えると、
「あなたの仕事が大変なのは分かっているんだけど、最近話をする時間がなくて不安なの。子供の受験のことなど一人で考えていると不安で眠れないときもあるので、一緒に考えてもらえると嬉しいな。来週少し話をする時間をつくってくれると助かります。」となります。

前者は「あなた」が主語になっています。「あなた」が主語になっていると、相手は自分が批判や非難されているように聞こえます。そして、妻が自分に対し「怒っている」または「機嫌が悪い」と思った途端に耳を塞いでしまいかねません。この場合、「怒り」などネガティブな感情しか伝わらず、本当にどうしたいかは伝わらないままになってしまう可能性が高くなります。

後者は、「私」を主語にして伝えたことで、相手は「妻は不安だったんだ」と妻がどう感じているかが分かり、「悪かったなぁ」と思ったり、「そういう理由で話がしたかったんだ」と理解につながりやすくなります。「私」を主語にするだけで、相手は耳を傾けやすくなるだけでなく、相手に適度な罪悪感や自責の念さえ出てくることがあるのです。これが「アイ・メッセージ」のトリックです。

「私」を主語にして話すということは、自分の言ったことに責任を持つことでもあります。自分が自分の言葉に責任を持つことで相手が安心し、耳を傾けやすくなります。「私」を主語にして話そうとすると、自分が本当に伝えたいことが何かをまず認知しなければなりません。「私」を主語にすることで、伝える目的が明確になります。「伝える」とは、自分の気持ちや考えを伝えることであり、相手に「察してもらう」ことを期待するのとは違います。相手がエスパーで言葉にしなくても心の中を理解してもらえるのであれば別ですが、言葉で自分の気持ちや考えを「伝える」必要があるのです。

「アイ・メッセージ」の話をした時によく訊かれるのは、「『私』を主語にして話すと、我がままな人と思われそうで心配ですが、大丈夫でしょうか?」という質問です。日本語で「アイ・メッセージ」に言い換える作業は、かなり意識を高く持たなければ難しいので、ちゃんと伝えたいことや大切なことを伝える時のみ意識するだけでも十分かもしれません。

「アイ・メッセージ」は、相手のために使っているようで、実は自分を知るツールでもあるのです。