No.9 カウンセリングとリスニングスキル – 経験や慣れは、ときに障害にもなる

カウンセラーにとって自由応答式質問の仕方や共感をどう表現するかなど、傾聴に必要とされるスキルの向上は、確かに経験と慣れによって可能になります。しかしながら、この“慣れ”というものは、カウンセラーにとってときに障害にもなります。

この“慣れ”によって相談を受ける側がついしてしまう行為のひとつに、話し手が何かを自分の言葉で表現する前に先回りして言い表してみたり(=代弁)、答えを出してしまうことがあります。こうした行為は、例えば、相談を受ける側があまりに「共感すること」に敏感になっているために発してしまう「あなたが全部言わなくても私にはあなたの気持ちが分る」というメッセージであったり、問題や解決方法の中にあるパターンを知っているため、先回りして「正解」を提示し余計な時間と労力を省略しようとする姿勢であったり、「私には十分な知識がある」という自己顕示の表現であったり、理由は様々です。しかし、「エンパワメントにつなげる真の支援」という意味では、この“慣れ”からくる「先回り」が実は「遠回り」になってしまうのです。

相談を受ける側は、自らの経験や知識から相談者を思いやって「先回り」をすることが多いのですが、「先回り」という行為は、相談者に「この人は、自分が全て話さなくても分ってくれる」と依存的な思考パターンを植え付けてしまったり、自分の言葉で表現するという認知のプロセスに欠かせない作業を避ける免罪符にもなりかねません。相談を受ける側も相談者が自分の言葉で表現していないにもかかわらず、互いに分ったような気になり、すれ違っていることに気づかず、ある日突然双方が違う方向を向いていることにショックを受けることもあります。

したがって、相談を受ける側が先回りしてしまうと、相談者が自分の言葉と表現で言語化する機会を奪うことになってしまったり、相談者が自信を積み重ねるひとつひとつのステップを取り外してしまったりと、相談者の本来持っている力を引き出すアシストをするどころかディスエンパワーしてしまっては、「遠回り」になってしまうのです。

相談を受けている側としては、相談者が何度も同じ話をしたり、ぐるぐると堂々巡りを繰り返していると、痺れを切らして自らの知識と経験から「先回り」したくなりますが、相談者が自分の言葉で表現するまで待つこともエンパワメントにつなげる一歩なのです。確かに、相談を受ける側のアドバイスでスムーズに解決に向けて進むことも悪い経験ではありませんが、あちらこちらにぶつかりながら一歩一歩自分の足で踏みしめて進むことで結果如何にかかわらず、到達点を受け止めることができるのかもしれません。

前回「アドバイスではなく、情報のひとつとして提示する」ことの重要性についてお話しましたが、アドバイスに限らず、「先回りが遠回り」という意識で傾聴することで、相談者の言語化する力や判断する力を引き出しエンパワメントにつなげる真の支援が可能になるのかもしれません。解決や浄化のプロセスは個々人で全て違います。だからこそ相談を受ける側がパターンに囚われてしまい、“慣れ”てしまうことが相談者との信頼関係構築のプロセスや相談者のエンパワメントという点で障害になってしまうこともあるのです。カウンセリングのスキルアップに“慣れ”は必要ですが、そこに大きな落とし穴もあるということです。