No.7 カウンセリングとリスニングスキル – 共感するときの注意点

前回「共感」について書きましたが、「共感すること」を意識するあまり、相談を受ける側がしばしば陥りがちな落とし穴があります。

それは、「共感しなくては」=「相手の気持ちをわからなければいけない」という考えに囚われ、聞き手が話を聞きながら自分が何をどう感じているかがわからなくなってしまう状態です。

確かに相手の世界と判断と選択を尊重して傾聴することは、カウンセリングにおいて非常に重要ですが、それは相手の話に聞き手が耳をシャットダウンしない(塞いでしまわない)ための意識の持ち方であり、決してただの「YESマン」=「いい人」になるということではありません。

カウンセラーも人間ですから話を聴きながら多くのことを感じ、思いや考えを巡らせます。カウンセラー自身がクライアントの話を聴く中で自分が何を感じているかを感じられなければ、対等な一人の人間としてクライアントに向き合い率直な対話を行うことが難しくなってしまいます。カウンセラーが「いい人」になってしまい、自分が本来感じていることをクライアントに投げかけられなければ、クライアントがひとりで頭の中でぐるぐると考えを巡らし整理できない状態と大差ない状況を作り出してしまうからです。

現在の傾聴スキルを確立したともいえるアメリカの心理学者カール・ロジャース(Carl Rogers)は、これを傾聴スキルの重要要素のひとつである“Genuineness”(カウンセラーが見せかけの役割意識を確立しない真実性)と説いています。カウンセラーがクライアントの話を聴き、それに対して質問や共感を示す表現をする上で、この“Genuineness”(真であること)がとても重要になってきます。

カウンセラーが「共感しなければ」という観念に囚われ、クライアントの話の中の矛盾や極端さなどを感じても、「自分はちゃんと共感できていないのではないか」と思うあまり自分の感覚を否定し、ただひたすらクライアントの言うがままオウム返しにリスポンスしたのでは、カウンセリングの意味や効果を弱めてしまう可能性があります。クライアントは、自分の感覚や思いや考えをカウンセラーというフィルターを通し、自分とは違う表現や見方、考え方を認識することで、自分の頭の中で考えているだけでは気が付けなかった何かを認知する機会が得られるのです。したがって、カウンセラーがクライアントと違う感覚を持つことも「共感」のプロセスの一部であり、それは必ずしも「共感できていない」⇒「クライアントの信頼を失う」ということではありません。逆にクライアントはカウンセラーとの間に感覚のギャップを感じると、もっとちゃんと理解してほしいと思い、より具体的に詳細を説明し言語化する努力をするかもしれません。

実際に、クライアントと100%共感できることは、個々の人間の経験や解釈が違う以上ほとんどありえないのです。カウンセラーは、クライアントの話の中で何が正しく、正しくないかをジャッジする必要はなく、何か矛盾などを感じたときに「お話の中でこことここが、私には矛盾しているように聞こえるのですが・・・」と自分の感覚の真実性を率直に返すことで、クライアントが自分の中で起こっている矛盾に気づくきっかけを提供できます。

カウンセラーにとって、「共感」は受信の作業で重要であり、「真であること(Genuineness)」は発信の作業の上で重要といえるかもしれません。そして、カウンセラーは、クライアントの話を聴きながら、クライアントが何を感じているかを感じ、自分が何を感じているかを感知し、そして自分の感じたことをクライアントに質問や自分の表現で返すという作業を瞬時に同時に行っているわけですから、ただ話を聴いているのではなく、ものすごいエネルギーを使う作業をこなしているともいえます。